老舗足袋店 めうがや

下町の足袋職人 石井芳和氏
東京・向島の一角に、こじんまりとした店構えの老舗足袋屋がある。いかにも時代を感じさせる、木製の看板に彫られた屋号は『めうがや』。「みょうがや」と読む。
創業140年を数えるこの店を守る石井芳和さんは5代目。もとは浅草にあったというこの店は、先々代のときに震災に見舞われ、向島に棚を移してきた。
「もともと足袋屋の子供ですから、身の回りには常に道具があって・・・」
と石井さんは言う。足袋を誂えるというのは、四角い布切れをピタリと合わせ縫うのとは違って、非常に細かな技術が必要である。人の身体、それも足首から下という小さな部位でありながら、全体重を支え、一挙手一投足のバランスを支配する部分を包み込む製品だから、履き心地には妥協できない。繊細な作業を身につけるのはさぞ大変な苦労だったろうと思うが、石井さんはさらりとこう言った。
「教科書はないですから、やる気が一番ですよ」
実は、「めうがや」が創業した当時は、店主自ら足袋を誂えることはほとんどなかったそうだ。足袋の誂えには20程の工程があるが、それらは下職さんと呼ばれる職人集団が分業して請負い、店主の役割はその職人集団の取りまとめ役と営業だった。父親である先代が子供の頃から、店主も作業の一部を受け持つようになったが、それでも店を切り盛りする両親はいつも忙しそうで、石井さんは「親を手伝いたい」、「跡をとりたい」と幼心に思っていたという。足袋屋を継ぐことを決めていた石井さんは、20代後半の頃、七年間を呉服屋での修行に費やした。呉服屋では花柳界とのつきあいが少なくなかった。「花柳界では人を待たせるということをしません」という石井さんは、そのことから”間”を学び、いずれ実家の足袋屋の営業に生かせると意気込んでいた。
しかし、先代の時期に下職さんが激減した。時代の流れで、職人という仕事を選ぶ人が少なくなってしまったためだが、店がある以上、足袋はつくらなければならない。「めうがや」の店主は、営業を担う「商人」から、手作業を担う「職人」へと意識を切り替えることを迫られた。同じ頃、職人が減るのと同じ理由で足袋屋も減っていった。先代も亡くなった。実際に足袋をつくる作業を請け負っていた下職さんがいなくなり、他の店も次々にのれんをおろした。必然的に仕事の量は増え、その全てが自分の肩にのしかかってきた。それでも石井さんの気持ちは折れなかった。
「手を抜いて楽してやる商いはしたくない。それが、お客さんとご先祖に報いること」
だと言い切った。
現在、手作業で足袋をつくる足袋屋は全国でも6,7件しかない。職人がいなくなってしまった今、自ら技術を覚えて仕事をする人もいるし、今でも下職さんを抱えて足袋をつくる人もいる。その中でも、「めうがや」は、フルオーダーで足袋を誂える数少ない店の一つである。
まず、お客さんの足を測ることが肝心だ。測り方に決まりはない。教科書もないし、教えてくれる人もいない。幼い頃から見慣れた道具、見慣れた作業。見よう見真似でやってみて、自分なりのやり方を見つける。そこからは、毎日の継続、積み重ねが基礎となって、どんどんスピードも上がってくるのだと言う。
しかし、一口に足を測ると言っても、決して単純な作業ではない。足の長さはもちろん、指一本一本の長さや厚みも測るし、甲の高さだって足首に近い部分とつま先のほうでは数字が違う。丁寧に細かく採寸し、採寸しながらお客さんの顔を覚える。一人一人の顔と足型を一致させておくことで、より柔軟な対応ができるようになる。フルオーダーメイドの要でもある。
数少ないフルオーダー対応の足袋屋の主人として、石井さんは言う。
「ここに来てくれるお客さんがいる限り、確かな技術でお応えしたい」と。
その気持ちがあるからこそ、「めうがや」では足袋を誂えるだけに留まらず、足袋の履き方や手入れの仕方までしっかりと教えてくれる。現代の人々の暮らしで、一生のうちに足袋を何回履くだろうか。それほど頻繁に使わないかもしれないものだからこそ、手入れの仕方で足袋の寿命はぐんと伸びる。また、通常6足組で注文を受ける足袋のうち、まず一足だけ誂え、お客さんに試用してもらい、履き心地や、履いて洗ったあとの伸び縮みの具合を聞いてから、残りの5足を誂えるという細やかな心の配りようも、買い手にはありがたい。
昔は正月用に新しいたびを誂え、元旦に真新しいそれに足を通すのが慣わしだった。人々の衣服が和装から洋装にとって変わられた今でも、足袋屋「めうがや」の冬は忙しい。
僧侶という立場上、足袋を履きなれている筆者だが、石井さんの丁寧で実直な仕事振りを拝見し、さっそくオーダーメイドで足袋を新調した。
言うまでもなく、履き心地は上々。皆様も是非、新しい年の始まりを真新しい足袋を履いて、キリリと粋に迎えてみてはいかがだろうか。
文章の提供 / TAKUMI

【老舗足袋店 めうがや】
オーダーメイド(6足から)のみ承っております。
電話 : 03-3626-1413
営業 : 9:00~18:00
地図 : 墨田区向島5-27-16
交通 : 地下鉄押上駅から徒歩10分
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